経頭蓋直流刺激tDCSは麻痺肢の運動スキル習得に影響を与えるか?

Stroke. 2012 Aug;43(8):2185-91. Epub 2012 May 22.

Modulation of training by single-session transcranial direct current stimulation to the intact motor cortex enhances motor skill acquisition of the paretic hand.

 
本日の英文抄読1本目。Strokeのonline firstの分ですが,脳卒中患者さんの麻痺側上肢の運動系列動作学習が非損傷半球M1への陰極経頭蓋直流刺激tDCSによって修飾されるかどうかを検討した研究です。対象者はかなり軽度の運動麻痺でした。(系列運動はキーボードをとある順番で打つという課題なので)ダブルブラインドのRCTで,1セッションのtDCS(20min)中?に5 blockの練習,90分後に再評価+4block, 24時間後再評価+4blockというようなdesignでした。結果は,系列運動の正当数がSham刺激と比較してtDCS群が90分後22%の改善,24時間後も平均19%の改善を維持していました。経頭蓋磁気刺激TMSを用いた評価では短時皮質内抑制の変化と課題の改善率と正の相関が認めました。つまり,tDCSは早期にオンライン(課題実施中の)学習の改善を促進させた,かつ24時間後も続いていたとされ,スキル獲得に寄与するのではとのことです。tDCSの介入効果は即時的に筋力が改善したり,機能パフォーマンスが改善したりと近年さまざまな研究が報告されています。この研究は,脳卒中患者さんの運動学習をも促進させる可能性を示したおそらく初めて?の報告になります。いわゆる半球間抑制メカニズムにより麻痺肢の学習が阻害されている場合があるのであればこの方法はそれを変調させるツールになるかもしれません。あくまで慢性期の患者さんなので,これが急性期,回復期の方に適応できるかは疑問がのこりますが,新規の系列動作の学習効率がすすむ可能性が示されたのは面白い結果だと思いました。たとえば,入院リハにおいて車イスからの移乗動作習得における学習などに応用できるかもしれません。まあ正確には単純な系列運動とは言えないので研究結果をそっくりそのまま応用するのは無理がありますが・・・。tDCSにおいても日本では薬事法で認可されておらずまだ臨床で使用することは困難ですが,近年ものすごいスピードで研究数が増えてきております。いずれ臨床応用される日も近いかもしれません。個人的には,シンプルに理学療法効果を高めるような使い方ができないかと思っています。事前にtDCSを加味することで運動スキル学習の改善が少しでも早くなれば,最終的に標準的なリハよりも早く在宅や社会に復帰できるかもしれません。直流刺激という点で皮膚のかぶれややけどなどのリスクが懸念されますが,TMSよりも圧倒的にリスクは低く,コストも安いです。頭痛などの副作用も報告されていますが,いまのところ重篤なものは報告されていません。欧州ではすでに家庭用のtDCS装置も販売されていると聞きます。日本でもはやく効果が明らかにされて臨床応用されればと思いますが,そのためには地道な研究が必要ですね。